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税務の勘所Vital Point of Tax

子会社or親会社どっちの収入? 審判所は納税者に軍配

2022/08/01

 法人税の「実質所得者課税」を巡る税金トラブルで、令和4年1月12日、国税不服審判所が納税者に軍配を上げたことが分かった。

 この事案は、不動産会社が、宅地建物取引業の免許を取らせた子会社の不動産業務を手伝う一方で、子会社の口座から現金を引き出していたというものだ。税務署は、子会社の収入は実質的に親会社のものと認定し、青色申告承認の取り消しや法人税等の更正処分等をしたことで争いになった。

 裁決書によると、その子会社は平成21年に親会社に買収され、親会社の代表が子会社の取締役に就任。そして、平成23年には親会社の代表者専属の運転手を子会社の代表に抜擢したほか、親会社の宅地建物取引士を子会社に移動させた。子会社は不動産売買や仲介取引のほか、ハウスメーカーなどから依頼を受けて地主との交渉、物件の調査などを行い、親会社は契約書や重要事項説明書の作成等について自社の従業員等にも手伝わせて業績を上げた。

 子会社は確定申告において業務収入を計上するとともに、平成25年からの5年間、すでに持っていた欠損金を所得から控除した。なお、同社は後に清算されている。

 この処理に対して税務署は、実質所得者課税の原則に基づき、子会社の業務収入は親会社のものであると判断。親会社は業務収入を申告しなかったとして令和2年3月、青色申告承認の取消や、青色申告を前提とする特別措置の否認を含む法人税や消費税の更正処分等を行った。税務署は、事実関係を次のように認定している。

①不動産の知識に乏しい運転手を名義だけの子会社代表にしたこと
②子会社の従業員だけでは不動産業務はできず、親会社の従業員等により取引が行われており、親会社が主体的に業務を行っていたこと。
③子会社の宅地建物取引士の給与は親会社が平成23年から5年間負担していたほか、子会社名義の契約書等は親会社のパソコンで作製されていたこと。
④子会社代表が親会社代表の指示により子会社口座から現金を引出していたこと。
⑤子会社代表を含む関係者のなかでは、親会社が取引を主体的に行っていたと認識されていること。

 親会社は、処分を不服として審判所に審査請求に及んでいる。争点は、子会社における収入は実質的に親会社に帰属するかどうか。

 審判所はまず、法人税の実質所得者課税の原則(法人税法第11条)の規定について「法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときには、実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上の当然の条理を確認的に定めたもの」として、適用にあたり「収入の帰属者が誰であるかは、本件法人(子会社)の事業の経緯、本件取引(子会社の取引)に係る業務の遂行状況、当該業務に係る費用の支払状況などの事実関係を総合して、業務の主体が誰であるかにより判断する」との考え方を示した。

 そして事実の確認では、子会社口座から出金された現金は、子会社代表への貸付と処理されていたことなどを追加。また、審判所は子会社代表等の申述の信用性について検討した。

 具体的には、税務調査の際に子会社代表が申述した、ア)親会社代表から口頭で指示され、私が子会社口座から出金し、その全額を親会社代表に手渡しする仕事があった、イ)仲介手数料などは子会社の行った仕事の入金ではない――といった内容が、その後全面的に修正されたことに着目。その修正では、子会社代表は「A:子会社代表者は親会社代表と共同で仕事をしていたこと、B:子会社口座から現金を払い出す際は、子会社代表の判断で行っていたこと、C:子会社収入はすべて子会社代表が行った取引に関するものであり、親会社が行ったものは含まれないこと、D:親会社代表との間で金銭トラブルがあり、悪感情から親会社が不利になることを認めた」と申述しており、審判所は「(修正後の)申述を積極的に否定すべき事情は認められず、上記(修正前)の申述を的確に裏付ける証拠資料もない」として修正前の子会社代表の申述は信用できないとした。

 これを受けて審判所は、(1)親会社と子会社は業務上密接な関係にあったが、繰越欠損金を利用したことのみをもって、運転手を子会社代表にした目的が、親会社が税金を不当に免れるためとはいえない、(2)子会社の取引につき親会社が主体となって業務を遂行していたとは認められない、(3)子会社代表への貸付金の存在を否定する証拠はなく、子会社口座から引き出された現金が親会社に渡ったと認めるに足る的確な証拠もないため、親会社が問題の取引に係る収益を享受していたことは認められないと判断。子会社の収入は親会社に帰属するとは認められないとして、税務署の処分を全部取り消している。

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